自分を追い込むのは他人を追い込む以上に好きではないのだけれど、
昨年齢五十を目前にしたあたりから何となく落ち着かない感じが昂じてきて、
閑中至楽という人生の理想から外れること甚だしく、
そういうことならいっそのこと意識的にもがいてみたほうが今は楽かもしれず、
このさい気持ちを整理してみるのも一興かと思い立ち、柄にもなく標語風に
人生の持ち時間を考慮しつつとにかく論文を書く。そのために
中途半端に芸域を広げすぎない。
必要な新しい技法の習得を躊躇しない。
外部の風に当たることを億劫がらない。
講義や担当業務を言い訳にしない。
などと独りごちてはみたのだが、眺めてみると何のことはない、
この十年ほどの実スタイル
面白そうと思えば見境なく手を広げ、
新しい技法の入門書を買い込んでは積み上げ、
外部との接触は極力避け、
研究が進まない言い訳を次から次へと考えつき、
論文はいつになっても書かれない
を反転させただけのことと思い当たり、
いやはや面目もへったくれあったものではなく、
ディスプレイに居並ぶ文句を前に一人微苦笑を禁じえないのであった。