ここのところ学校選択について私が読んで面白いと感じる文献は、おおむね次のような前提に立って書かれている。
学校選択制を導入することの是非は主要論点ではない。なぜなら、学校選択はつねにすでに存在していたし、存在しているから。私立学校に通わせることを選んだり、どこに住まいを定めるかを入念に調べたりすることによって。
したがって、問われるべきは<if>でもなければ<when>でもなく<how>である。
2001年、ブルッキングズ研究所が発足させた
the National Commission on Choice in K-12 Educationもそうであり、以下は、同委員会の2冊目の報告書にあたる
Getting Choice Rigft: Ensuring Equity and Efficiency in Education Policy, Brookings Institution Press, 2005に収録されている
Julian R. Betts, “The economic theory of school choice”からの摘録である。
【完全競争】
学校は2種類の教育サービスを提供するものとする。ここでは数学(縦軸)と言語(横軸)。
使用できる資源を一定とするならば、2種類のサービスはACを通る右下がりの曲線と2本の座標軸に囲まれた部分で生産されうる。

曲線は生産可能性フロンティア
(production posibilities frontier)を表している。(生産点Xは数学教育と言語教育に充てられうる資源を他の用途のために費消したケースということになる。)
曲線がこのような形状をとっているのは、収穫逓減(成果を1単位上げるために要する資源はレベルが高くなればなるほど多くなる)を想定しているからである。
家庭は多かれ少なかれ数学も大事だし言語も大事だと思っている。
逆向きに湾曲している曲線
(indifference curves)は、2種類の成果に対する家庭の価値づけが等しい組み合わせを表している。
曲線がこのような形状をとっているのは、たとえば、数学の成績がとても低い場合には、数学の1点は言語の1点よりもはるかに価値があるとみなされるだろう、と想定しているからである。
この図の場合には、生産点Cよりも生産点Aのほうが選好される。のみならず、後者はこの家庭にとって最善の学校であるということになる。
もちろん異なる家庭は異なる無差別曲線をもつ。

この図では、ある家庭にとっては生産点Aをもつ学校が、また別のある家庭にとっては生産点Cをもつ学校が最善の学校ということになる。
いずれのケースにおいても、それぞれの学校は、言語の達成を犠牲にすることなく数学の達成の最高レベルを生み出しており、逆もまた同様である。その意味において効率的である。・・・
仮に、すべての学校が、上述のような線に沿って生徒のために競争しなければならないとしたならば、他の生徒にとっての成果を傷つけることなくある生徒にとっての成果を向上させることはできない。これが完全競争市場の美点である。・・・
・・・完全競争市場の最善の結果は、効用の観点からみて、各家庭を可能な限り well-off な状態に委ね、しかも、他の家庭の福利を減退させることがない。
このことは、生徒の達成が最大化されると言うことと同じでは必ずしもない。
もしも家庭が数学と読解における達成以外の教育の側面を大事に思っているならば、選択は達成を最大化するとは限らないであろう。
(pp. 19-20)
さて、完全競争市場の対極に位置するのが独占である。学区制下の学校は類推的に独占体とみなすことも可能である。
それは汎用の教育を提供することになる。先の図で点Bがこれに相当する。
だが、明らかなように、いずれの家庭にとってもこれは worse-off を意味する。
さらに、家庭にとって価値のないことに資源をつぎ込むことにより、生産可能限界曲線が左下方に、たとえば点Xを通るところまで引き下げられる可能性も否定できない。
完全競争市場のモデルがその有用性を発揮するのは、現実世界の市場にとっての比較対象項となるときである。
完全競争が存在するための7つの条件の各々について検討する。
【理論と現実】
● 条件1および2: 同質の製品に関して数多くの供給者と買い手が存在する
異なるタイプの教育について市場が形成され、それぞれの市場内に十分な数の学校を確保できれば、一応は条件を満たすけれど、一連の市場は密接に関連しあっているので、ちょっと無理がある。
だが、完全市場と独占との間には不完全な市場が存在しうる。そして、多かれ少なかれ競争は無競争よりは消費者にとってベターであるというところに、この理論の含意がある。
独占的競争
monopolistic competition。
たとえば、ほとんどの親は自宅近くの学校にわが子を通わせることを選好する。
すると、地域の学校は親たちに対するある種の市場的権力を得る。すなわち、すべての顧客を失ってしまうなどという恐れがないため、学校は所与の価格で少量・低質のサービスを提供する。短期的には独占の様相を呈する。
→ だが、新規参入の後には、それによって生まれる競争が生徒にとっての結果を改善し始める。
→ 参入が進むと、学校の数が多くなりすぎる。その結果、各学校に入学してくる生徒の数が少なすぎて、効率的であるには足りなくなってしまう。
この事態は、経済的意味では非効率だが、生徒たちには現実的な選択権を生み出す。
しかしながら、現在実施されているオープン・エンロールメントのもとでは、最善の学校に入るには長く待たなければならない。
● 条件3: 売り手は買い手を選ばず、誰にでも売る
テストの点数が物を言うような仕組みのもとでは、満たされない可能性が高い。学力の高い生徒を欲しがるというインセンティヴが学校に生じる。
私立だと宗教もかかわってくる。
もちろん、特色ある学校が志願者をスクリーンしてはならないというわけではないが、セーフ・ガードは必要である。
● 条件4: 完全情報が存在する
家庭に必要な情報は2種類。
利用可能な選択肢に関する情報と、わが子のニーズに関する情報。
教育の提供者の側にも市場に関する完全な情報が必要となる。
● 条件5: 売り手は利潤を、買い手は「効用」を最大化(しようと)する
一般に、効用とは子どもの長期的な利益のことだが、わが子の最善の利益をめざさない少数の親たちが存在するという問題。
エジソン・スクールは別かもしれないが、学区の学校やチャーター・スクールは果たして non-profit か? いずれにしても、学校選択の世界では、利潤追求的であろうがなかろうが、学校は競争しなければならない。
つまり、消費者主権。
ここでの中心問題は、親の目的が何かということだ。
もしもすべての親がわが子の利益・才能・ニーズにふさわしい最善の教育を探し求めているのならば、学校が利潤追求的かどうかなど格段問題にならない。
● 条件6:売り手も買い手も、自由に参入し自由に退出することができる
限られたケースではあるが、親はすでにそうした権利(転校とかホームスクーリングとか)を持っている。
学校の場合はもう少し深刻。参入障壁が結構ある。地域規制とか膨大な書類の山とか。公的な精査が不要なわけではないが、結果としてハードルが高くなってしまっている。
もっと難しい問題が学校の退出にさいして生じる。
多くの州では、州が何らかのかたちで失敗した学校の受け皿となる。これでは市場の効果が減殺されるのでは。
競争市場の特質は、そんな学校は倒産する、なのだが、そうもいかない。学校が閉鎖された場合、生徒たちをどうするのか。
● 条件7: 外部性が存在しない
生産場面での外部性 = ピア・グループ効果。
とするならば、学力混合学級。
成績の平均値ではなく、成績の分布に気を配る。
成績のいい生徒がまわりにいればわが子の成績が上がるのであれば、そういう学校に入れたいと親は思うだろうから、エリート学校に志願者が殺到するし、そうなればエリート学校は、親たちの願いをかなえるために成績上位の志願者をすくい取る。
結果的に、学校間のギャップが拡大。
【採りうる解決策】
● 自由に参入も退出もできない不完全競争
親の教育嗜好は多様である → 学校の提供するサービスも多様。
この異質性に加えて、学校開設に開設に対する参入障壁の存在 → 学校教育市場において完全競争はありえない。
だが、不完全競争は完全無競争よりベター → 学校間の競争の程度を最大化するように設計する。
- 既存の学校建物を賃貸借できるようにする。ある学校が失敗したら、別の学校にリースできる。
- 大規模学校を分割する。維持費や食費や輸送費等のコストを共有できる。
- 開設に必要な書類を最小限必要十分なものにする。
- 遠距離通学を可能にするスクール・バス補助を充実させる。
● 学校はすべての生徒を受け入れる
ジェンダーや人種や性的指向や宗教的信条によって生徒を選別しない。
だが、スキミング・オフの問題はどうするか?
志願者全員を入学させなければならないというのは浅はかだ。各学校の目的というものがある。
- 生徒を成績でスクリーンする学校があるかもしれないが、他方で、裕福な地域から入学できる生徒の数に定員を設けたり、成績分布の幅の広さに応じて補助金を交付するとかすることによって、トップの生徒だけを受け入れる学校が存在しないようにする。
- 募集定員を超えた場合には抽選にする。ただし、学校のスクリーン権も認める。
たとえば、募集定員が S 、応募者数が A で、A > S の場合、S + (A - S)/2 に抽選券を与える。
こうすれば、学校は、自らの望む生徒を得たいならば、より幅広く募集し志願者を募らなければならなくなる。そして、そのためには、入学基準を生徒の要求に沿って変動させる必要が生じてくる。
これは通常の市場における価格調整メカニズムに似ている。
学校の評判が高まれば、志願者の数も増すが、それに応じて抽選対象者の数も増えるので、単純にスキム・オフすることはできない。
- 新規参入学校は、一定期間、この抽選を実施しなくてもよいことにする。
【完全情報】
情報提供に関しては為すべきこと為しうることがたくさんある。(省略)
【親の目標・生産者の目標】
疲れたので省略。
【外部性】
ピア・グループ効果。
学校選択制のもとで、できる生徒を各学校に振り分けるというのは難しい。
もうちょっと残っているけど休憩、というか明日のお仕事の準備をしなくては、ということで、このつづきは明後日以降。