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2008-03-07 やる気向上作戦:
以下は、「ニューヨークタイムズ」2008年3月5日付所載記事の紹介。

Next Question: Can Students Be Paid to Excel?   by Jennifer Medina

ニューヨーク市立学校で昨秋から進行中の「やる気向上作戦incentivising」の実態に関するレポートである。4年生と7年生が対象。共通学力テストの高得点者に金銭報賞を授与するというもの。
実はこの作戦の興味深いところは、 白人生徒と非白人生徒間の、社会経済的地位の低い/高い生徒間の成績差を縮めようというそのねらい、あるいは、より根本的には、 文化資本ギャップに起因するインセンティブ・ディバイドの克服というその目的にある。 したがって、従来のメリット・ペイ云々とは別の文脈に位置している。 この点、以下の記事紹介にはいささかミスリーディングな部分があるので、注意が必要。
作戦のねらいや提唱者のフライヤーなる人物についてはいずれまた。

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4年生の生徒たちは、席でそわそわしながら、賞の発表を待っていた。 先日行われた読みと算数の試験の点数で自分がいくら獲得したのか、数分後にはわかるのだ。 共通テストでほぼ完璧な点数を取れば最高の50ドル近くを受け取ることもできるのだが、ここマンハッタンの南東部にある第188公立小学校の多くの生徒はそんな大金はもらえないだろう

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賞が手渡され、ジャスミン・ローマンの勉強熱心さは39ドル72セントに値すると褒められた。 ジャスミンは友だちのアビゲール・オルテガにひそひそ声で「あなたはいくらもらった?」と尋ねる。 アビゲールは聞こえるか聞こえないかくらいの声で「36ドル87セントよ」と口を動かす。 エドガー・バーランガは、34ドル50セントのご祝儀に、拳を高々と突き上げた。

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でも、生徒たちが知らないことがある。担任のルース・ロペス先生も、生徒たちの成績のおかげで儲かるのだ。 年度内に何回か実施される州のテストで生徒たちの成績が上がれば、公立学校の教師はそれぞれ3000ドルのボーナスを受け取ることができるのである。

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ある一つのアイディアが、学校を改善する鍵は、教師や校長へのボーナス支給を通じてであれ、生徒に与える現金ご褒美の類を通じてであれ、とにかくパフォーマンスに対して何らかの支払いをおこなうこと、というアイディアが、全国の学区の心をグッと捕らえている。 こうした動向の最先端にいるのが、この国で最大の公立学校システムを擁するニューヨーク市だ。 200以上の学校があれやこれやのインセンティヴ実験を実施中であり、多数の学校で、生徒や教師や校長たちの全員が、生徒の共通テスト点数に基づく特別手当ての受給資格者となっている。

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マイケル・ブルームバーグ市長によれば、これらの学校はそれぞれ、目に見える金銭報酬が学校を立ち直らせることができるどうかを判定するテストである。 成績を軽蔑する生徒たちに、勉強ができるということは格好いいこと(クール)なのだと思わせることが、金銭によって可能なのか? 教師たちは、学校全体へのボーナスを獲得しようとお互いに向上プレッシャーをかけあうだろうか?

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これまで、市は、今年度実施が予定されている10回の共通テストのうちの何回かの受験に対する報酬として、58校の5237人の生徒に50万ドル以上をすでに配っている。 プログラムに参加することを選択した学校は全市に広がっている。

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「これですべてが解決するだろうなどと言ってるわけではありません」 ハーバードの経済学者で、この生徒やる気向上作戦を設計したロナルド・フライヤーは語る。「そうではなく、やってみるだけの価値があると言っているのです。われわれが試みる必要があるのは、口火となる最初の一歩なのです。」

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全国を見渡してみると、さまざまな学区でさまざまなアプローチが試みられてきた。 そのなかには、生徒に、ギフト券やマクドナルドの食事、あるいはクラスのピザ・パーティーを与えるというものもある。 ボルティモアでは、州テストの点数が上がった奮闘学生にお金を与えるという案を計画中だ。

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もちろん、こうした努力に批判的な論者もいる。子どもたちは、お金を稼ぐためにではなく、知識のために学ぼうという気にさせられるべきである、と。これらの人々は、最終的に賞が学力を引き上げるかどうかに疑問を投げかけている。 ニューヨーク市は、税金ではなく個人寄付をこの生徒実験の原資に宛てており、、公金を支出するボルティモアの計画が引き起こしたような論争を注意深く回避している。

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生徒報酬プログラムに参加することにまったく気を病まない校長もいる。 ブロンクスのサウンドビュー地区にある第123中学校のバージニア・コネリー校長は、善行や良好な出席状況や高評定にたいして、校内売店で使える玩具のお金を褒美に与えるというかたちのインセンティヴ策をここ数年間実験してきている。

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「わたしたちの競争相手はストリートなんです」とコネリー校長は言う。「今日が何曜日だろうと、生徒たちはそこに出かけて行き不法に50ドルを稼ぐことができるのです。そういったことと対抗するためにわたしたちは何かをする必要があります。」

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それにたいして、第188小学校のバーバラ・スラティン校長は、生徒の成績が良ければお金を与えるということに最初は懐疑的だったと語った。 この学校の生徒たちの多くはD通り近接住宅プロジェクトに住んでおり、おそらく確実に報奨金を歓迎するだろうが、しかし、間違ったメッセージを伝えるのが心配だった。 「金銭の観念を勉強ができることと結びつけたくなかったのです。」

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しかし、フライヤー博士の売り込み口上をきいて、スラティン校長はやってみようと口説き落とされた、とのこと。 「必要なことなら何でもやりたい、われわれはそうですよね。でしたら、これがそうなら、わたしはその船に乗り込みます。」

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1996年、第188小学校は、州教育省によって失敗の烙印を押されたが、過去10年間に劇的に改善してきた。昨秋には、市の報告表でAにランクされている。 それでもまだ、昨年の州の算数のテストに合格した生徒は60パーセントに満たず、読みでは40パーセントに満たなかった。

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この学校の教師たちが語ったところによれば、今年、生徒たちの態度がよくなった、そしてそれはインセンティヴ・プログラムのおかげだ、とのこと。 最近のある日、4年の生徒たちが、今週ある州の算数の試験に備えるために、それまでずっと遊んでいたコンピュータ・ゲームについてしきりに話していた。 冬休みの期間中も、多くの生徒たちが、準備のための補習に顔を見せた。

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「先生がもっと勉強しなさいって。だから勉強するの」とジャスミンは言う。彼女はすでに今年度の共通テストを8回受験している。 「かけ算の表はやったし、割り算も覚えたわ。」 どうしてそんなにたくさん試験を受けるのかと尋ねたら、ジャスミンは真顔でこうこたえた。「わたしたちが教育を受けたってこと、そして教育とテストからいろんなことを学んでるってことを見せるためよ。」

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生徒たちはお金の使い道について興奮気味に語った。 男子生徒たちのなかには、ビデオ・ゲームを買うために貯めているという者もいる。 アブリゲールは、「車と家と大学」を買うために使おうと思ってると言う。彼女が今年度稼ぐ金額がだいたい100ドルで、それでは遠く及ばないということを、明らかに知らないのだ。 また、別の女子生徒は、お金を食べ物に使うつもりだと言う。詳しくきいてみたら、小さな声で「スパゲッティ」。

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7年生の態度を変えるのはもう少し込み入っているように思われる。 たとえば、ブロンクスの第123中学校で、7年生の英語クラスに、「共通テストの回数は多すぎますか?」ときいてみた。 すると、教室のすべての手が挙がり、反抗的な「イエス」が表明された。 だが同時に、生徒たちは皆、テストでいい点数を取ると金をもらえるのはいいアイディアだということには同意し、それが学校を今よりエキサイティングなものにするし、勉強ができるということを今より社会的に好ましいものにすると言う。

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「これは合格するのが一番難しいグレードなんだ」と、とても勉強熱心な13歳のアドニス・フローレスは言う。 「これがぼくらにやる気を出させる。みんな金は欲しいし、取り残されたいと思ってる奴なんていないよ。」

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大学の奨学金としてお金をもらえたほうがいいかという問いには、「絶対ダメ」という叫びが教室中に響き渡った。 「みんなが大学に行くわけじゃないし」とある生徒が抗議の声を上げた。

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では、学校で成績がいいのは格好いいか? 数名の生徒の手がそろそろと挙がった。 しかし、コネリー校長が、Aプラスの生徒であるということが、バスケットボールのスター・プレーヤーであるということと同じくらい大切だ、となるにはなにをどうすればいいだろうかと尋ねたときには、だれもなにもこたえなかった。

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教師たちにとって、ボーナスは両義的に迎えられている。 個々の教師に対するメリット・ペイというアイディアはたいそう毒性が強いので、組合は、学校全体に対して一括ボーナスが授与されるべきであり、組合員に均等にでも、傑出した教師を選び出してでも、どちらでもいいが、いずれにせよそのボーナスは共同の運営委員会によって分けられるべきだと主張している。

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それでもやはり、組合の各学校支部の投票を経た後でも、教師ボーナス・プログラムに加わるチャンスを与えられた200校の約90パーセントは参加している。 今年度、第188小学校と第123中学校を含め、多くの学校ですでに、全校で得る金額を分配するための決議がなされており、事務職員その他のスタッフをもそこに含めようとする試みがなされつつある。

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報酬は迷惑だという教師は一人もいないが、思いがけない果実が落ちてくる可能性があるということになれば労働の強化につながるだろうと言う者がいないわけではない。

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「顔をひっぱたかれるよりはマシ」と第188小学校で10年以上教えているミズ・ロペスは語る。 「でも、正直な話、そのことについては考えていません。わたしたちは毎日働いていますし、毎日追い立てられています。何年もずっとそうだったんです。お金のためにそうしているわけではありませんし、わたしたちのほとんどは、お金が理由で、それをなおざりにするわけでもありません。」

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それにたいして、ボーナスはめったにない報酬のチャンスだと語る比較的新参の教師たちはもっと肯定的であるように見える。

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「いつも生徒たちに言ってるんですけど、後ろに座って、作業プリントを渡すだけでもらえる金額は、教室の前に立って一日中精力をすり減らしてもらえる金額と同じなんだ、と。」 第123中学校の数学科主任、教師歴10年のクリスティーナ・ヴァルゲーゼは語る。 「その場合、モティベーションは何でしょう。少なくとも、今回のものは、わたしたちがそれに向けて頑張るなにかを与えてくれます。」

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スラティン校長と配下の教師たちがボーナスを獲得したかどうかがわかるのは数ヶ月先になるだろうが、テストの点数は有望である。 州試験の模擬テストでは、4年生の77パーセントが州の標準を突破している。 残りのうち約半数は合格ラインをわずかに下回っているだけなので、今年度のテストに80パーセント以上が合格するのは可能であろう ― 学校にとってバーチャルな夢 ―

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「それを信じたいんですが、でもおかげで神経質になってしまいます。」 スラティン校長は言う。 「だって、わたしたちが見慣れている数字とは違いますから。」

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